【ALBUM REVIEW】KOHH『worst』

Written by. Kentaro Okuyma


日本、東京都北区出身のラッパーKOHH(コー)の引退作『worst』はまさに
その名にふさわしい「最低だけど最高」な彼のキャリアを総括したまさに
「自由」な作品であった。

KOHHとしての活動を終える引退作になる『worst』で、彼は一体なにを語ったのだろうか。

彼のこれまでの経歴についてはこちらから


アルバムの1曲目“intro”でシャウトしたのは同郷のラッパーTakeshi Gunji(Mony Horse)、そしてKOHHの実の弟であるDomino(Lil Kohh)
Mony HorseTakeshi Gunji名義でクレジットされ、
王子」「住まいは川沿い」など、
彼らの生い立ちを語る上では欠かせない言葉がシャウトされ、
まさに今作の始まりを告げるにふさわしいシャウトであった。

2曲目の“Sappy”では、「最低だけど最高」という彼らしい音楽スタイルを歌詞で表現している。
彼のライフスタイル、そして喜びと悲しみの複雑なマインドを歌った
“Sappy”はプロデューサーにSkirillexを迎え、激しいサウンドとKOHHの歌詞の絶妙なギャップがアルバムを一気にヒートアップさせる。


“将来の夢はニート 何にもしないで息を吸う
自由 吸う 自由”

KOHH
“Sappy”

3曲目の“Rodman”では自身の派手なライフスタイルをNBAプレイヤーのデニスロドマンを重ね合わせ、日々変わりゆく感情を歌い上げている。
派手な生活を過ごしてる、でも自分みたいにはなるなと、その複雑な心境をこの曲から読み解くことができる。


“I smoke I drink I ball I dip You broke I’m rich
俺みたくはなるな
誰にもなれないから俺みたくはなるな
まるでデニスロドマン
まるでデニスロドマン”

KOHH
“Rodman”

4曲目の“2 Cars”では、昔の生活から今の生活になった変化を感じることができる。
昔は原付バイクや、電車に乗り出かけていた彼だったが、一躍スターになりその生活も昔とは比べ物にならないほど変化したようだ。


“その日の気分でどっちに乗るのか考えよっか
原付2ケツ昔 もう電車も乗らない全く
車走るブンブンブン おもちゃみたく遊ぶ”

KOHH
“2 Cars”

ここからアルバムは彼のファーストアルバム『梔子』以来あまり語られてこなかった女性への思い、関わり方を表現していく。
5曲目の“Anoko”
そして6曲目の“I Think I’m Falling”では、
2014年にリリースされたKOWICHIの楽曲、
“Boyfriend #2(Remix)feat.YOUNG HASTLE,KOHH & DJ TY-KOH”
を彷彿とさせるリリックが登場する。


あの子は彼氏がいる ごめんなさい彼氏
でもあんまり気にしない

KOHH
“Anoko”

“昔のビ○チもういい でも未だにCalling Me
今新しい可愛い子 ごめんなさい彼氏 Sorry”

KOHH
“I Think I’m Falling”

“彼氏にごめんなさい S○Xしたいだけじゃない
友達とかみんなに会わせたいくらいまじで可愛い”

KOWICHI feat.YOUNG HASTLE,KOHH & DJ TY-KOH
“Boyfriend #2(Remix)”

女性への思いを歌った“Anoko”“I Think I’m Falling”
7曲目の“John and Yoko”ではKOHHと女性の特別な関係性が表現されている。
純粋な女性への思い、しかし相反している関係性、
そのことをKOHHは“John and Yoko”で歌っている。
女性に求める関係性も初期の頃に比べると、
変化していることを察することができる。


“本当はいけないこともわかってる
でも俺達はかなり似合ってる
オノ・ヨーコとジョンレノンみたいになってく”

—————————————————————
“女と男 体と心 Boyfriend no.1
S○Xしたいだけじゃない
見た目も可愛いし 俺を成長させてくれる中身”
(ジョンレノンとオノ・ヨーコは不倫関係の末、結婚した)

“John and Yoko”
KOHH

8曲目の“ゆっくり”、続く9曲目の“レッドブルとグミ”では呆然と生活の中で、
KOHHは生きている実感を感じていることが2曲の歌詞を見ると察することができる。
ここまでのキャリアを思い出し、時間の早さに気づいたKOHH
変化した生活した中で昔のことを思い出し、
懐かしんでいるKOHHの様子が浮かぶ。


“自分次第で感じれるし 窮屈に生きるのは罪
ゆっくり流れる水みたいに 命の早さに気づく”

“ゆっくり”
KOHH

“時間がいつもより早い 終わっちゃうから始めない
本当はすぐに始めたい 終わっちゃうから始めない”

“レッドブルとグミ”
KOHH

ここからこのアルバムはKOHHの引退について、語られてこなかった部分が少しずつ見え始める。
3月22日の「シブヤノオト」に出演した際にKOHHは引退宣言について、
「人の心をかき乱しまくって、新しいこと、面白いことをした方がいいんじゃないかと思います」
と語っていた。
まさにその言葉の通り引退宣言はその1つの行動だったのだ。
こうした予測のできない1種の危機感、ミステリアスなオーラが彼の魅力と言える。
そうした自身の美学についてまさに、
10曲目の“シアワセ(worst)”では歌われている。


“増やす秘密 また辛くなる
ごめんなさい 心の中
このままがいい それが最悪
悪いことばかり重なりだし
ただのろくでなし
まるで詐欺師”

“シアワセ(worst)”
KOHH

11曲目の“Is This Love”では、
愛についての悲痛な心の叫びがアコースティックサウンドともに歌われている。
1月16日の「KOHH-LIVE IN CONCERT-」でも、ギターを演奏する姿が見受けられたが、
“Is This Love”そして13曲目の“What I Want”ではアコースティックギターで愛や夢について歌い、今までのどのアルバムよりもふんだんに生音が楽曲に使用されていることはここまでのアルバムの流れから理解できる。

12曲目の“友達と女”では、
「KOHH」としてのキャリアで成功を収め自由を手にしたKOHHの、
自由なライフスタイルについて、
アルバム前半の要素をエモーショナルなサウンドに変えて歌いあげている。


“いつも通り起きたい時起きて美味い飯食って
昔から乗りたかった車運転
首にする新しいプラチナのチェーン
友達と女の子それが人生”

“友達と女”
KOHH

引退宣言を発表してから、彼についての情報が
「王子復興財団」「シブヤノオト」などで多く発信されてきた。
そこに映るのはいつも同じ団地で育ったKOHHの仲間達である。
日本から飛び出し世界を知ったKOHHが最後に行き着いたところは、
やはり自身が生まれ育った「王子の団地」だったようだ。

どんなに高級な体験をしても、昔からの仲間との日々には敵わないと、
KOHHは実質アルバム最後の楽曲“They Call Me Super Star”で歌いあげている。


“お金だけあっても馬鹿馬鹿しい
まず地元に一軒屋欲しい
一流シェフでも敵わない
すずんちの生姜焼き”

“They Call Me Super Star”

KOHHがシーンに現れてから7年、彼の音楽性の根本は何も変わっていない。
変わったのは彼のライフスタイルであろう。
日本語ラップの畑を飛び出し、
世界を回ってまた原点に戻ってきた様子が『worst』からは多く感じることができた。
KOHHとしての新たな作品がもう聴けなくなることを考えると、私も一ファンとして心細くなるが、KOHHは今後も何か新しいことをはじめ私たちを興奮させてくれるに違いない。


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